セネカ

セネカ
角田 幸彦(著)
清水書院 (2006-04)
¥ 893
ISBN:978-4389411862

皇帝ネロの最初の5年間の善政を指導したセネカの思想について、時代背景を含めて簡略に紹介した本。

いろいろな著作が紹介されているが、例えば『人生の短さについて』の主旨になっているのは、「世人が嘆く人生の短さは、実はひとの心の弛みから発せられるものであり、人生は十分長いということを納得させることである。人生の短さを託つのは、人生を随分と無駄に使っている証拠である。」ということだそうだ。
なるほどと思うところもあるが、管理人augustusは人生には無駄な部分も必要な気がする。

時代背景の解説については、セネカの生きた時代の厳しさを強調したいのか、ユリウス・クラウディウス朝の皇帝たちの悪逆非道ぶりがことさらに強調されている。ティベリウス帝が息子ドルゥススを殺させたなどといった間違った記述もあるので、割り引いて読む必要があるだろう。

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多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉

多文化空間のなかの古代教会―異教世界とキリスト教〈2〉
保坂 高殿
教文館 (2005-11)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265882

同著者の『ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉』の続編となる本で、帝政後期における主に一般信徒の宗教意識を詳しい資料とともに紹介している。
古代のキリスト教徒に対しては、「大迫害にもかかわらず堅固な信仰を守った人々」というイメージを持ちがちであるが、本書を見ると帝政末期の信徒たちはむしろ多神教的宗教意識を持ち司教たちが教化に苦労していたようだ。

第1章では教会会議決議その他の文献資料から、そういう異教に宥和的な信徒の姿を浮かび上がらせている。
例えば、永遠の命をキリスト教の神に願い、現世的で一時的なものをダイモーン(異教の神々)に祈願する信徒のことをアウグスティヌスが記述している。また、世俗的公務はもちろん、異教神官職までも兼ねる教会聖職者がいたことがわかり興味深い。

第2章では墓碑や壁画、彫刻に見られる一般信徒の宗教意識の分析である。これも異教的意識とキリスト教的意識が混在していることがわかりやすく説明されている。
例えば、D(is)M(anibus)「黄泉の神々へ」という異教墓碑の定型句がキリスト教徒の墓にも多数使われているのだ。また、ローマのいくつかのカタコンベにはオルフェウス・キリスト像が見られる。オルフェウスという異教神は死んだ妻エウリュディケーを追って黄泉に下り、ハーデースを魅了・呪縛してもう少しで妻奪還に成功するところだった。これがキリストの死に対する勝利と二重写しになったらしい。

エピローグの章も興味深い。感銘を受けた記述を2つ挙げておく。
『キリストもまた四世紀以降の諸皇帝にとっては「神々」の序列に入る、他の神々と並ぶ一人の神、しかしその配下に教会という堅固な組織を持つがゆえに利用価値の非常に高い一人の神であった。』
『社会はゆっくりと、そして表層的にキリスト教化する一方、逆に教会は異教化の方向に向かって一歩後退二歩前進を繰り返してきた。』

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キリスト教の興隆とローマ帝国

キリスト教の興隆とローマ帝国
豊田 浩志(著)
南窓社 (1994-02)
¥ 8,155
ISBN:978-4816501302

3世紀後半のキリスト教勢力のローマ帝国支配階層への進出過程を論じたもの。

第1章、第2章は支配階級でのキリスト教徒の進出状況が論じられている。属州総督や元老院議員の階層ではキリスト教徒はあまり多くなかったようだ。元老院階級に次ぐ支配階級である騎士身分のキリスト教徒もそう多くはないが帝国東半分で増加していたらしい。また、第1章は3世紀後半が帝国支配に騎士身分が重用された時代であったことを教えてくれる。

第3章はとても興味深い。皇帝フィリップス・アラブスがキリスト教徒であったという説を紹介し、その当否を検討している。

第4章、第5章はウァレリアヌスとその子ガリエヌスの対キリスト教政策を論じている。両者の政策は一見対照的だが帝国東部の支配権確保という見方をするとわかりやすいらしい。

「目から鱗」という感じがするところや、「え。そんなことがあったの。」とびっくりしながらも面白く読めるところが多くあった。
特に第3章に少しだけ書かれているゴルディアヌス3世戦病死説がとても興味深い。普通、ゴルディアヌス3世は次の皇帝フィリップス・アラブスに無慈悲に殺されたとされているが、実はペルシャ軍との戦争で負った傷がもとでの戦病死なのだそうだ。詳しくは著者の別論文に書いてあるそうなので、いずれ読んでみたいと思っている。

目次
序章 「大迫害」直前のローマ帝国とキリスト教
第1章 帝国支配身分とキリスト教
第2章 紀元三、四世紀におけるキリスト教と帝国支配身分
第3章キリスト教皇帝フィッリップス・アラプス
第4章 皇帝ウァレリアヌスとキリスト教迫害
第5章 皇帝ガッリエヌスとキリスト教公認勅答令
終章 「キリスト教ローマ帝国」への道

投稿者 augustus : 08:43 | コメント (2) | トラックバック

ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉

ローマ史のなかのクリスマス―異教世界とキリスト教〈1〉
保坂 高殿(著)
教文館 (2005-10)
¥ 2,625
ISBN:978-4764265875

本書はクリスマスの起源を明らかにすることを目指して書かれている。クリスマスは4世紀初頭に不敗の太陽神の祝祭から借用されたものという説明が以前から為されてきていたが、それだけだと、なぜ4世紀初頭になって初めてクリスマスがキリスト教会に導入されたのかが不自然である。本書はそういう問題も含めてなるべく多くの資料を引用しながらわかりやすく説明してくれる。

古代ローマの多くのキリスト教徒は、キリスト教に改宗した後もそれまでの多神教的生き方を変えたわけではなかった。現世的利益を願って異教の神を拝し、異教の祝祭に喜んで参加する人たちであった。異教の祝祭へ行って教会へ来なくなる多くの信徒をどうするかが教会指導者には大問題であり、その解決策として渋々導入されたのがクリスマスをはじめとするキリスト教の祝祭であったらしい。
クリスマスは当時盛んだった太陽神の祝祭から信徒を取り戻すためものであった。だから太陽が復活する冬至の頃に行われる。信徒にもキリストを「真の太陽」とか「新しい太陽」と説明して、異教的祝祭からキリスト教的祝祭へと導いたのであった。

こういう説明はきっぱりと異教に決別した信仰心篤いキリスト教徒をイメージすると大きな違和感があるが、多神教的枠組みの中に生きておりなおかつ普段はそれすらも意識しない我々多くの日本人には納得しやすいもののように思う。当時のローマ帝国のキリスト教徒もきっとよく似た感じ方をする人たちだったのだろう。

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ユダヤ人とローマ帝国

ユダヤ人とローマ帝国
大沢 武男(著)
講談社 (2001-10)
¥ 735
ISBN:978-4061495722

ナチス・ドイツや中世に顕著に見られる反ユダヤ人思想は古代ローマ時代に源を遡ることができる。本書はどのようにして反ユダヤ人思想が形成されてきたのかを解明しようとしている。

ローマ時代以前から、ユダヤ人は一神教を固く守り、他民族と摩擦を引き起こしてきた。一方で、自分たちの存在を守るため共和政ローマに接近し、その保護を受けてきた。
帝政期に入ってもユダヤ人は独自の宗教とその律法の慣習に従って生きる権利を認められてきた。ネロやハドリアヌスの時代の反乱で、神殿を失ったり、エルサレムから追い出されたりし、危険で警戒すべき民族という印象をローマの支配者層に与えてしまった。しかし、帝国側からのユダヤ人迫害は散発的、限定的なものであって、帝国は基本的にはユダヤ人を保護していたようだ。

最初期のキリスト教徒はほとんどユダヤ人であった。異邦人たちにキリスト教が受け入れられていき、福音書が成立するころまでにユダヤ人はキリスト殺しであるという考え方が作られたようである。
キリスト教がローマの支配的宗教となると、教会側から反ユダヤ的教会法がかなり出されている。ユダヤ人でありユダヤ教の慣習の中で生きているキリスト教徒もまだいたようだが、キリスト教会は彼らをユダヤ教の慣習から切り離し、ユダヤ教徒をキリスト教徒から隔離しようとしたようである。
ユダヤ教徒をキリスト教に強制改宗させようとする動きまで出てくる。

古代末期の教父であるアウグスティヌスの考え方を本書は以下のように書いている。
ユダヤ人の罪業を絶えず意識している教会にとってユダヤの民は「教会の敵」であるが、同時に彼らはキリストの真を証明するための「教会の下僕であり奴隷」なのであって、ユダヤ人が祖国なき流浪の民として四散したのも、キリスト教が世界万民に広がり、至るところで発展するために定められたことだという。ユダヤ民族の惨めな状態における生存、存続こそが、教会のための「証」であり、「奉仕」であるとされたのである。
「民族全体でキリスト殺しの罪を背負って惨めに生きてろ」ってことだろうが、怖い考え方である。このキリスト教会側の考え方で反ユダヤ思想が決定的になったのだろう。

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ローマ帝国の神々―光はオリエントより

ローマ帝国の神々―光はオリエントより
小川 英雄(著)
中央公論新社 (2003-10)
¥780+税
ISBN:978-4121017178

ローマで大流行した東方からの宗教について取り扱った本。
どんな宗教がローマに入っていったのか。 なぜ、東方からの新しい宗教が人気を得たのか。
そんな疑問に答えてくれる一冊。初期のキリスト教についても取り扱っている。

投稿者 augustus : 18:19 | コメント (0) | トラックバック


古代ローマ (ローマ帝国の歴史とコイン)
古代ローマ (ローマ帝国の歴史とコイン)