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碑文から見た古代ローマ生活誌

碑文から見た古代ローマ生活誌
ローレンス ケッピー(著), 小林 雅夫, 梶田 知志(翻訳)
原書房 (2006-07)
¥ 2,625
ISBN:978-4562040261

古代ローマ人がその長い歴史的歩みの中でつちかってきた「碑文」という文化、そして碑文研究を通じて古代ローマ世界の再構築を試みる研究者たちの活動を、古代ローマ史・碑文学研究を専門としない人々、大学の学部学生を含めた一般の人々に、広く認知し、理解してほしいという意図のもとに書かれた啓蒙書です。(訳者あとがきより)

言うまでもなく碑文は古代ローマについての第一級の資料であるが、私を含めて歴史を専門としない者には碑文の読み方を学ぶ機会がほとんど無い。本書のような日本語で読めるローマの碑文学入門書が出版されるのは初めてではないだろうか。実にありがたいことである。

第3章には碑文解読の入門的な知識がまとめられている。字体、略語、人名について、また、石材に合わせてスペースを省略する方法として合字(繋がった文字)が紹介されている。
この章の数詞について解説している部分には貨幣にも関係する面白いことが書かれている。貨幣単位のセステルティウスをHSと書くだが、それがIISから来ているというのだ。セステルティウスは1/4デナリウスなのだが、1デナリウスは当初は10アスであり(後に16アスになる)、1セステルティウスは2.5アスに相当する。Iはローマ数字でお馴染みの1、Sはsemis(半分)の略なので、IISは1+1+0.5=2.5になる。アルファベットと数詞を区別するためにIISの中段に横線を引いたものがHSになったのだ(IとIの間に横線を引いてみるとはっきりする)。

4章から6章までは碑文の年代測定のこと、どのようにして碑文が失われていったかについて、また、集められた碑文の記録と出版の歴史が扱われている。
第7章から第17章までは分野別に碑文からどういうことが分かるかを実例をあげて解説している。各章それぞれ実に興味深い内容である。

第17章にAVG(アウグストゥス)の複数形をAVGGなどと書くのがディオクレティアヌスの頃から始まったように読めるところがあるが、セウェルス朝の頃の実例を見たことがあるので、たぶん何かの誤りだろう。また、一部に誤植はあるが(アントニウス・ピウスと書いてあったりする^^)、そういう細かい誤りを差し引いても素晴らしい本なので全てのローマファンにお勧めしたい。


第1章 序―歴史を塗りかえる碑文
第2章 石切職人とその技術
第3章 碑文の解読法
第4章 碑文の年代推定
第5章 碑文の残存
第6章 記録と出版
第7章 碑文における皇帝
第8章 地方と社会
第9章 ローマへと続く道
第10章 ローマ帝国の運営
第11章 軍隊と前線
第12章 神々の神殿と祭壇
第13章 墓石と記念物
第14章 交易、経済と商業
第15章 POPULUSQUE ROMANUS
第16章 キリスト教
第17章 最後のローマ帝国
第18章 結論―碑文の価値

投稿者 augustus : 2006年08月05日 17:05

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